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秋田の手しごと、暮らしごと

本サイトは、2012年9月に秋田公立美術工芸短期大学大学開放センター「アトリエももさだ」で行なわれた市民向けイベント「ももさだ祭」の企画として、あきた産業デザイン支援センターが主催した「秋田の手しごと、暮らしごと」展を元に作成しております。

高橋和夫 高和製作所(代表取締役)

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椅子張りの技術を後世に

インタビュー
高橋さん

喫茶店から国連本部の椅子まで

「秋田の人だったら、うちが張った椅子に座ったことない人はまず居ない」。高和製作所の高橋社長は、そう胸を張る。最近の仕事では、ニューヨークの国連本部に納入する椅子の張りを数十脚手伝った。「こんな小さな工場で、と誰も信用しない(笑)。目立たない職業であることは間違いないな」。秋田市泉にある高和製作所は、日本有数の椅子張り専門の職人集団だ。椅子職人には木地屋と張り屋がいて、木地屋が作った骨組みに、張り屋が布や皮を張って仕上げる。「この、ボタン留めの長椅子は駅前の喫茶店に。この低座椅子はあのホテルの料亭、これは客室に。」これまで納めた椅子の写真を見せてもらいながら、確かに座ったかも!と納得。

職人の手に代わる機械なんてない

山形で生まれ、15歳の時、秋田で椅子張り職人をしていた叔父に弟子入りした。一度山形の天童木工でも修行を積み、25歳で独立。県内最大手の家具メーカー、秋田木工(湯沢市)の張りも学び、やがて仕事を受けるようになった。「家具の町」大町6丁目からも注文を受けるようになったし、70年代の喫茶店ブーム、90年代のホテル建設ブームで家具業界はにぎわっていた。しかしそれも次第に影が落ち始める。大量生産の安価な家具、大型店の進出、消費者ニーズの変化、さらには取引先の経営不振を受け、高和製作所も多額の負債を抱えることに。「あのまま倒産しても不思議は無かった」と振り返る。それでも職人は一人も切らなかった。「張り屋はすべて手仕事。職人に代わる機械なんて無い」。職人たちのかけがえのない技術があったから乗り越えられたという。工場では、わずかな道具だけを使い、1脚1脚手作業で椅子が仕上げられていた。

職人さん

仕事のやりがい

「修理の仕事は、お客さんの喜ぶ顔が直接見れるから、感慨もひとしお」だという高和社長。工場には、たくさんの椅子やソファが修理を待っていた。今では珍しいバネの入ったアンティークの椅子も、バネが折れていても捨てる前に持ってきて欲しいという。修理の仕事は、職人にとっても良い勉強になる。椅子は、製造した家具メーカーによって張り方や道具が違う。外からは見えない椅子の中が、修理すればその会社がどんな技術を持っているかが一目瞭然だという。どんなメーカーの椅子も張り替えられるのが、ここの自慢だ。

職人さん
職人さん
職人さん
職人さん

技能士の育成

高和製作所では、ベテランの職人のほか、若い職人の姿も。みんな直接「弟子にしてください」と門をたたいて来るらしい。「叔父さんに弟子入りしたとき、『お前じゃ飯が食えるだけ稼げない』と言われた。最初から独立するつもりでいたから、奮起して頑張った」今では張り屋だけで独立するのは大変だが、仕事のパートナーを見つけて、いずれはみんなも独立していってほしいというのが高橋社長の望みだ。自身の性格を「世話焼き」だという高橋社長。椅子張りには、技能士検定(国家試験)がある。一人でも多くの技能士をと、自社の職人だけでなく、県外の企業まで出向き、張りの技術指導に尽力している。

反り針

高橋さんの暮らしごと 「反り針」

社長業を引退したら何がしたいですか、と聞いてみた。「たぶん引退しないと思う。今でも作るのが好きだもの」という高橋社長。今でも、「この仕事は俺がやる」と言うと、職人たちは誰も手を出さない。
1級技能士試験の課題であるバネ式の丸いスツールを実演してくれた。小さな釘を数十本口の中に放り込み(!)、1本1本口から出しリズムよく木枠に布地を留めていく。使いやすいよう、自分で曲げるという“反り針”で表面を縫い合わせ、あっと言う間に仕上げてしまった。

写真

「秋田の手しごと、暮らしごと」展

2012年の夏、あきた産業デザイン支援センターが主催し、秋田県内の作り手やお店を取材、それらを紹介する企画展「秋田の手しごと、暮らしごと-美しい日用の道具と作り手を訪ねて-」が開催され、丁寧な仕事から生まれる日用の道具が展示されました。

高和製作所オリジナル小椅子(正面)

高和製作所オリジナル小椅子

高和製作所オリジナル小椅子(側面)

高和製作所オリジナル小椅子

看板

有限会社 高和製作所

http://www.takawa.net/

「美しい日用の道具と
    作り手を訪ねて」

 伝統的な技術を活かしつつ、現代生活に合わせ新しくデザインされたもの。職人の確かな腕が生み出す、スタンダードで長く使い続けられる道具。
 ふるさとの手しごとと真摯に向き合い、作り手を応援するお店。
「あきた産業デザイン支援センター」のスタッフが、県内各地を走り回り、手しごとに関わる人たちを取材してきました。秋田の様々な手しごとの“今”をご紹介します。

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