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秋田の手しごと、暮らしごと

本サイトは、2012年9月に秋田公立美術工芸短期大学大学開放センター「アトリエももさだ」で行なわれた市民向けイベント「ももさだ祭」の企画として、あきた産業デザイン支援センターが主催した「秋田の手しごと、暮らしごと」展を元に作成しております。

日景義雄 日樽(代表取締役)

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木の温もりを伝える秋田杉桶樽

インタビュー
日景さん

時代の変化に応えて

「小さいのも作るよ。大変な技術と、時間が掛かるけどね」父親の代から大館市で伝統的工芸品「秋田杉桶樽」を製造・販売する有限会社日樽の日景社長を訪ねた。秋田杉の細い木目を活かし、伝統的割工法を用いて作られる桶や樽は古くから生活の中にあったが、需要の減少に苦しむ時代もあり、ものづくりから離れた時期も。「何でもやったよ。ダンプの運転手から、不動産の営業、レジャー施設の支配人…」と日景社長は語る。この経験を肥やしに跡を継いだ昭和40年代後半から社長は精力的に動く。造り酒屋をはじめ、全国を営業に廻って酒樽の受注を取り、おひつやボトルクーラー、ぐい呑みなど多様な生活道具も作り始めた。「やってるのは、うちだけ」という食卓に合わせた二升サイズの小さな酒樽や川連塗りとのコラボ商品をはじめ、日樽のものには時代のニーズに合わせる社長の柔軟さと職人の確かな技術が光る。

柔らかさを生む、手しごと

「昔のおひつはね、床の上で使ってたから深かったの。でも今はテーブルの上で食べるから」日樽の「浅型おひつ」が現代の食卓に馴染む理由を日景社長が教えてくれた。風呂桶製作の経験と技を活かし、丈夫で変形しないものが出来上がるまでに「2、3年じゃきかない」ほどの苦節を経た。職人と試行錯誤を重ねて開発したこのおひつの技術で特許も取得した。「うちの特徴はとにかく、手間ひまかけた『手しごと』です。使う人は殆ど女性で主婦。その人達にとってどうやったら使いやすく、優しくなるかだね。だから最後には必ず手で仕上げる。柔らかさが違うから」おひつの角の取れた底は、使い手のことを思う日樽の手しごとの温かみだ。

工場

「田舎のお母さんにも」

仕事のやりがいは?と聞いたら、社長が札幌に実演販売に出向いた時のことを話してくれた。九州からお嫁に来たという若い奥さんにおひつを売ったところ、数日後に「こんなに美味しいお米が食べられるなんて。ぜひ、田舎のお母さんにもおひつを送ってください」という電話がきたそうである。「酒樽は業務用だけど工芸品は直接お客さんの反応が聞けるから。それがたまらなくて。こんなのもあったんですよ」お客さんから 送られた写真や手紙を見せてくれる社長の顔はちょっと誇らしげ、そして優しかった。

日景さん

作り続けた数だけ、思いがある

毎日、全国各地に出荷される酒樽の数は年間3000個。仕事の大部分を担うが、日樽では工芸品の種類も豊富で今や70種類に及ぶ。作り続ける理由を日景社長はこうも語る。「若い人に工芸品を目指してやってもらえればね。酒樽はもちろん大事。でも、うちなら樽も桶も両方やれるから。難しいけどやりがいはあるよって」職人を目指している若者に見ただけでメッセージが伝えられるようなもの作りたい、社長のものづくりは産地の未来にも繋がっている。

おひつ

日景さんの暮らしごと 「おひつ」

「おひつです。家では違う種類の3つを交互に使ってますよ。ご飯がね、特に夏場は美味しいです。あとは杉のお箸」とお気に入りの日用品を紹介してくれた。特に使いやすいのは5合の浅いおひつ。少し炊いた時でも飯へらが回しやすいとか。「手間ひまはかかるけどね。毎日お昼のご飯を2、3杯食べられるの」と笑顔の日景社長。おひつもお箸も日樽お勧めの一品だ。

麹蓋

この道、60余年。現役82歳の田中さん。

工房から少し離れた場所に木取りの作業を行なう場所がある。そこで出会った田中さんは現在82歳。この道の先達だ。重たい丸太を軽々と持ち上げ、木取りの工程を元気に説明してくれた。今では田中さんだけが作れるという「麹蓋」は造り酒屋が吟醸酒に使う麹を育てるもの。杉を手で割くようにして作られた板は長く薄い。機械では再現できない自然の凹凸で、目と目の間に「麹の花」が咲き、美味しいお酒になる。

田んぼ
写真

「秋田の手しごと、暮らしごと」展

2012年の夏、あきた産業デザイン支援センターが主催し、秋田県内の作り手やお店を取材、それらを紹介する企画展「秋田の手しごと、暮らしごと-美しい日用の道具と作り手を訪ねて-」が開催され、丁寧な仕事から生まれる日用の道具が展示されました。

片手湯桶

片手湯桶

味噌樽

味噌樽

おひつ(3合)

おひつ(3合)

酒樽

酒樽

工場外観
「美しい日用の道具と
    作り手を訪ねて」

 伝統的な技術を活かしつつ、現代生活に合わせ新しくデザインされたもの。職人の確かな腕が生み出す、スタンダードで長く使い続けられる道具。
 ふるさとの手しごとと真摯に向き合い、作り手を応援するお店。
「あきた産業デザイン支援センター」のスタッフが、県内各地を走り回り、手しごとに関わる人たちを取材してきました。秋田の様々な手しごとの“今”をご紹介します。

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