本サイトは、2012年9月に秋田公立美術工芸短期大学大学開放センター「アトリエももさだ」で行なわれた市民向けイベント「ももさだ祭」の企画として、あきた産業デザイン支援センターが主催した「秋田の手しごと、暮らしごと」展を元に作成しております。
柴田昌正 柴田慶信商店(代表取締役社長)
親から子へ 子から孫へ
「大館曲げわっぱ」
親子二代の追求
「親父が仕事している姿が恰好良かったので、私もこの世界で仕事をしようと思いました」大館市の駅前商店街に本社をかまえ、大館曲げわっぱを製造、販売する「柴田慶信商店」を訪ねた。二代目社長の柴田昌正さんの語り口は明快で揺るぎない。角の取れた優しいフォルムと「つくし弁当」「おさなご弁当」などのネーミング。柴田さんの曲げわっぱからは可愛らしい印象を受ける。そして、白木の明るい白さと秋田杉の香り。仕上げは無塗装の白木だ。そこには「ご飯が冷めても、美味しく食べれること」へのこだわりがある。
「お手入れは面倒ですよ。昔ながらの道具ですから」手入れの煩わしさも楽しむ、むしろその手間がご飯を美味しくする。
私たちが便利さの追求の中で忘れていた「暮らしのかたち」が柴田慶信商店の曲げわっぱにはある。
曲げわっぱを通して、人との関わりを
柴田慶信商店は、東京に直営店舗を2つ構えている。浅草と日本橋の三越だ。浅草店が3年前、三越店は4年前にスタート。百貨店の老舗・日本橋三越に選ばれたのは、父・慶信さんが「地道に30年、実演販売を積み重ねてきた信頼があったから」と話す柴田さん。
浅草寺の御膝元にある浅草店では、定期的にワークショップを開催している。今年の夏の弁当箱を作るワークショップでは、遠くは神戸からも柴田慶信商店のファンが集り、3日間で約50人の定員が1時間で満杯になった。「ワークショップでは子どもからお年寄りまでカンナと鋸を持って、一から作るんですよ」と楽しげな柴田さん。こうした取り組みをはじめ、「曲げわっぱを通して、人との関わりを作るのが嬉しいですね」と話してくれた。
現代の生活に寄り添う工夫
「お互いが対等な立場でアイディアを出し合い、モノを作っていくのが『マゲワ』シリーズです。デザインにのみ特化することなく、素材を活かすことを前提にしています」そう話す柴田さんと日用品デザイナーの大治将典さんの二人が手掛けた「パン皿」や「バターケース」のデザインは至ってシンプル。だから使い勝手もよく、パン皿にはお菓子や器を置いてもいいだろう。バターケースは父・慶信さんが「チベットから持ち帰った木のバターケース」に発想を得たもの。「効能を大事しないとモノは売れない」柴田さんの持論の通り、白木の持つ通気性と吸湿性でパンはカリカリに美味しく、バターは適度な堅さで保存される。ユーザーからの反響も「大変好評」で、一部には生産待ちの商品もある。
一生使える生活道具に
仕事のやりがいを「お弁当を買って中身を詰めた写真を送ってくれるんですよ。毎日、楽しく使ってくれているのが分かるから嬉しいです」と話してくれた柴田さん。「伝統工芸品には弱い部分もある。だから1個ではなく2個を交互に使うことを勧めています。必要な時は修理に持ってきて下さい」そうすることで一生使いとげる道具になるからだ。
「うちは無塗装なので黒ずんでも漆が塗れます。長いスパンで考えているんですよ」と柴田さんの言葉には何度も頷かされる。父・慶信さんのものづくりへの真摯な姿勢が、柴田さんの中にも確かに継承されていることを感じた。
新しい工房にて
昨年移転したばかりの3階建ての本社。2階の店舗では、曲げわっぱで造った「金魚鉢」が出迎えてくれた。ショーケースにはたくさん の商品と長年使い込まれた曲げわっぱ、チベットの木製バターケースが展示されていた。1階の工房では職人さん達が忙しそうに立ち働く。天井には、木ばさみで固定された弁当箱が連なるように吊るされてた。
柴田さんの暮らしごと 「器」
お気に入りの日用品を尋ねてみた。「生活の中で使う道具が大好きで、特に器がいいですね」と柴田さん。「たくさんの作家と会うので、色々買ってしまうんですけど。和紙張りの越前漆器では毎日味噌汁を飲んでます」。勿論、「曲げわっぱの弁当箱は毎日使ってますよ」とのこと。
「秋田の手しごと、暮らしごと」展
2012年の夏、あきた産業デザイン支援センターが主催し、秋田県内の作り手やお店を取材、それらを紹介する企画展「秋田の手しごと、暮らしごと-美しい日用の道具と作り手を訪ねて-」が開催され、丁寧な仕事から生まれる日用の道具が展示されました。
パン皿(大・小)
バターケース(丸型・小判型)
長手弁当(大・小)、おさなご弁当
有限会社 柴田慶信商店
作り手を訪ねて」
伝統的な技術を活かしつつ、現代生活に合わせ新しくデザインされたもの。職人の確かな腕が生み出す、スタンダードで長く使い続けられる道具。
ふるさとの手しごとと真摯に向き合い、作り手を応援するお店。
「あきた産業デザイン支援センター」のスタッフが、県内各地を走り回り、手しごとに関わる人たちを取材してきました。秋田の様々な手しごとの“今”をご紹介します。
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